サルのはなし(第4話)
サルの食べ物と食べ物としてのサル
(財)実験動物中央研充所 谷岡功邦
近頃、ヒトの世界では暴飲暴食は流行らなくなって、美食の時代になり、やがてダイエットが幅をきかせるようになってきました。いくらダイエットだとはいってもリンゴや葉っぱだけでは身体が満足しません。グルメはヒトの本能なのです。脂肪分をできるだけ減らした肉や魚が売れたり、ノンオイルのサラダドレッシングがもてたりしています。
本来、ヒトは雑食性の動物で、実をいうとブタに近いのです。野菜の嫌いなヒトはむしろ肉食獣のイヌ・ネコの仲間ともいえましょう。
サルはリーフイーター(葉食)
さて、われらサル類はどうでしょうか?ヒトや豚など下品な動物とは違ってわれわれ(サル類)は菜食主義に近いのであります。ゴリラなどはもう立派な菜食主義者です。ニホンザルなどマカク属のサルの主食は葉っぱや果実類です。そのほかのサル類も多くは草性あるいは果実食性であります。どうりで野生ザルには肥満がないわけです。
カニを食べるカニクイザルがいるだろうって!、カニタイザルが本当にカニを食べるかどうかはさておいて、おっしゃるとおりサルの中には植物以外に動物性蛋白をとるものもいます。マーモセット類はバッタや鳥の卵を食べますし、チンパンジーはアリを食べたりミルクを飲んだりします。ただし、主食はやはり植物性のもので、昆虫などはほんのデザート代わりです。
サル類の中でヒトと同じように肉食を含む雑食性のものにヒヒ(図1)がいます。こいつはどう猛で喧嘩好き、サル仲間では嫌われています。ヒトの真似をしている野蛮な奴らなので、近くサル類から追放きれヒト科の方に分類しなおされるだろうと噂されています。
チューインガムを噛むチンパンジー
昔は外で物を食べながら歩いたり、乗物の中で口を動かしていたりすることを、はしたないことだと教わりました。進駐軍が入り込んできてからチューインガムは例外的な存在となり、やがてソフトクリームもクレープもその仲間に入りました。ホットドッグもハンバーガーも違和感なく若者が囓って歩いています。そのうちカレーライスもスパゲティーも、ビフテキも歩きながら食べることが流行るかも知れません。
チンパンジーは、つる性の植物の木の皮をチューインガムのように噛んで楽しむことが観察されています。長時間噛んでいるのですからヒトと同じです。でもお行儀の悪いヒトのように、道やホームにペッツと吐き捨てるようなことは決していたしません。
なお、サルの世界では、歩きながら物を食べることは流行ってはいません。食べる時間と移動の時間を区別しています。子供連にはヒトの真似をしないよう教育しています。
サルに玉葱を与えたらどうなるか?
サルにタマネギを与えると、次から次へと皮を剥いていって遂になにも残らず怒りだすという話を聞いたことかありませんか。あれは愚かな人間の作り話と思われます。サルにミカンなどを与えると歯で皮を剥いて中身だけ食べるので、そんな舌を作ったのでしょう。実験もしないでサルをあたまから馬鹿にした話です。
それでは、サルはタマネギを本当に食べるでしょうか?答えはイエス。葱類は大好物で、野生のノビルやワケギ、野菜の長葱なども白いところをばりばりとよく食べます。だからタマネギだって平気で食べます。もちろん、茶色い外側は剥いてから食べ始めます。これはあちこちの野猿公園で実証済みなのです。
貴方は生のタマネギを丸ごと1個噛まれますか。サルにとってはあの辛さと臭さがなんともたまらないようです。
食べ物(栄養)と子づくり(繁殖)の関連
ニホンザルでは、山での食べ物の豊富な年は子供がよく生まれよく育ちますが、食べ物の少ない凶作の年にはコロニーの数が増えないといわれています。食べ物、つまり栄養と繁殖には関連のあることが知られています。野猿公園のサル類はお客さんに餌(それも人間の食べる栄養価の高いスナック菓子など)を貰いますので、どこも増えすぎてしまっています。猿害を生じるので避妊処置を講じた所もあるくらいです。 マーモセット(写真1)なども、ジャングルでは年間1産で1〜2子しか育ちませんが、実験室内で十分な栄養のもとに繁殖すると、なんと自分の育てる能力の1産2子を越えて8子を産む個体が増えてきます。しかも年2回出産しますので結構どんどん増えることを経験しています。もちろん環境条件も影響しているのでしょうが、栄養のよいことが繁殖性の向上につながっていることは確かです。
ヒトの世界では栄養と子供の数との関連は不明確ですが、停電の多い年や不況の年の翌年に出産が多いそうです。なんの法則なのでしょうか?
健康、長生きとカロリー摂取
アメリカで、アカゲザルを使って栄養と寿命の関係を研究している方がいます。まだ実験の途中だということですが、通常食の約30%減の制限食(低カロリー群)では血圧や血糖値が正常で、いたって健康であり、通常食群より長生きすることは確実だと予測しています。実験開始5年後において、通常食での体脂肪率は25%であったのに対して、低カロリー食では10%であるとのことです。ネズミではすでに低カロリー食で長生きすることが証明されています。
長生きしたい向きはサルに習って30%のカロリー制限をしましょう!
実験用のサルの餌は、魚粉や肉付き骨粉などの動物性蛋白質が配合されていて、結構デブる個体も見受けられます。ケージ内で運動量の少ないことも一因でしょう。現在、私の研究室では強制的にダイエットさせられているサルがいます。だって太り過ぎているため、ほかのサルよりも投与する薬の量がべらぼうに多くなってしまうので、実験にも使えないのです。
ここまでは、「サルの食べ物」の話、サルの栄養や健康の話でした。ここからは「食べ物としてのサル」、つまりヒトの食用としてのサル、薬用としてのサルのお話です。
ヒトがサルを食った話
土人はサルが大好物だという話や、アマゾンの現地人がウーリーモンキーを料理していたのを見たという話を読んだことがあります。
最近、フィリピンにいる友人から電話を貰い、現在でもサルの肉を食べているとの情報がありました。世界は広いのでおそらく他のサル保有国の中に、サル食をしているところがまだあるに違いありません。
ニホンザルの水炊き
日本ではサルを食べるようなことはないとお考えの方もいらっしゃるでしょうが、残念ながら答えはノーです。昔はやはり食べていたようで、広島県の宮島では島民が ニホンザルを食べたとの記録かあり、また岐阜県西濃地方ではニホンザルを水炊きで食べていたことが伝えられています。
さらに遡ると、縄文時代の日本人がサルを食べていた形跡も見つかっておりまして、もはや日本人も、土人や東南アジアの人々のことをとやかくいえる立場ではないことは明確であります。
ヒトはサルの一種族であり、この点からいえばサル食いはまさに“共食い”であります。
−愚かなる人間よ、奢ることなく我を見つめよ!−
サルの肉は臭味しいか?
ニホンザルの肉の味についての記載は探すのに苦労します。「サルの肉は嫁に食わすな」というくらい美味しいというヒトや、「まずいのう、あれを食うと身体が冷える」という話もありました。
味覚は人さまざまでしょうか、本当の味はさておき、サルに対する印象の方が先に サルの脳みそ料理
中国の一部の地方の料理にサルの脳みそを食べるものがあります。台湾にも同じような料理があるそうです。
もうひと昔前のことですが、日本の中華料理店の裏の方にサルが置いてあったとの知人の話を聞き、今度見たら写真を漁って欲しいと頼んでおいたところ、後日、竹籠の中に輸入されたと思われる子ザルがぎっしりと詰め込まれている写真を撮って持ってきてくれました。わが国でもサルの脳みそ料理が食へられていたことに、当時唖然としたものです。
サルの脳みそ料理だって、実のところはそんなに美味しいものではないような気がします。これはむしろ、食べれば頭が良くなるとか、身体に良いとか、薬用料理の域ではないでしょうか。サルの脳みそで頭か良くなるくらいなら苦労はいりませんよ、ね!貴方。
秘薬「サルの現の黒焼」
脳みそならまだましかも知れません。背からサルの頭の黒焼(頭を蒸し焼きにした黒い骸骨状のもの)というのがあって、これが秘薬として長くもてはやされてきました。頭痛薬、強壮剤、万病の薬、さらには長寿の薬ということで、江戸時代には迷信まじりで民衆に熱狂的人気を集めたそうです。
その“信仰”はつい最近まで続いていたと思われます。岐阜県高山市の朝市でサルの頭が幾つも並べられているのを見たという人もいるくらいで、今でも各地の山村部でこの「黒焼」の実物が発見されています。
薬としてのサルの有用性
サルのいろいろな組織が薬として利用されてきました。肝臓、胆嚢、胃、腸、胎児などが脳膜炎、黄疸、関節炎、中風、動脈硬化、心臓病、胃カタルなどに有効とのことです。また、強壮剤としてサルの骨や頭、陰茎が使われました。
外国においても、古代メソポタミアの時代からサルの骨が薬として用いられていた記述があります。また、東南アジアではテナガザルの脂肪がリューマチの薬、カニタイザルの内蔵がマラリヤの薬、アマゾンのインディオではホエザルの喉袋が百日咳の薬として用いられるとのことです。
サルの薬は本当に効くのか?
これらの効果がいかほどのものであったのかは分かりませんが、多分に迷信まじりであったようにも思われます。また、頭を頭痛の薬、目ん玉を眼病の薬、陰茎を強壮剤とするなど短格的なところもあります。サルの姿がヒトに似ていることから、ヒトめ病気をサルの身体に託して信じ込んでしまっているのかも知れません。ここでもヒトはちゃっかりサルにすがっているわけです。
−愚かなる人間よ、汝はサルの一種族なり、奢ることなく我を見つめよ!−
(つづく)
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